隧道の詩

定形も自由もいろいろ

不安定な気持ちを言葉にしたい。それだけの気まぐれなブログ。口語自由詩ばかり。
くだらない近況報告も挟みつつ。
過去に書いたものも少々。
2016.7.5開設

逃避行

私は24歳になった日に 子供のような善悪を知らぬ男に手を引かれ 虫の羽をちぎって遊んだ 番の蝶々を捕まえて 羽の鱗粉を指で払って 夕立に濡れて 重くなった羽を引きずる蝶々の メスの片翼をちぎり捨てて草むらに投げ捨てた オスは大事にコートの内側に匿って 家に帰って餌を与えた 雲が去ったら外へ出て メスの死んだ草むらに放った 共に遊んだ男は公園のそばの 花壇で花占いをしていた

君を愛すること

薔薇の花束を贈るよりも 君の好きなキンセンカを庭に植えたかった。 君の手を引いて イルミネーションを見つめるよりも ソファで居眠りする君に そっと毛布をかけてあげたかった。 凝ったデートプランなんて破り捨てて 生まれ故郷の町で 一緒に迷子になりたかった。 使い古された「愛してる」の言葉を 君に伝えないことが愛だと思った。 君がいなくて寂しいと 君の眠る棺桶に投げかけたかった。

クズな私

人より気の多い飽きっぽい私を君は諦めて 他人の温もりが残ったままの私の左手をそっと離した 後悔している君の横顔を見て 次の信号で別れようと広がる歩幅 ここから先は言葉ではどうにもならないね 傷ついた君に胸を痛めたフリをして手を振った 君のいない穴は誰かが埋めてくれるよ ピッタリはまるピースではないから 少しだけ隙間風が吹き込む部屋で 声を殺して体を重ねている ごめんね、君に謝れない自分を申し訳な…

ネオン

心の貧しい 街の夜に 女の無垢は 破られて 白い吐息の 昇華する 空は重く 近くある ゴミに埋もれた 社畜男の 二つの穴に 馭者の足 コンクリートを 牽いていく 空は狭く 澱むだけ 朝露さえも 輝けぬ 灰色の路地からにらむ ドブネズミ ネオン看板の コードをかじり 空はわずかに 星を見せる 煤けたコートの 胸ポケットの ライターオイルが 切れている 今日もこの街は寒い

泥酔

まあるい月の出る晩に 借金取りがやってくる そいつの頭は林檎みてえに真っ赤っか ピストルで撃ち抜いてやれ 撃ち抜いてやろう なあに近くじゃ屋台帰りの おやじがうるさく鳴いている ちょいと林檎に穴をあけても 誰にもわかりゃしないだろう もしも野次馬が覗いてきたなら 念仏よりありがたい 鉄弾の音を耳に詰めてやれ ああ、ちょいと 足元が揺れている 少し水をかけてやろう ピシャンと洗面台の前に立ちゃ 林…

雨雲

空を飲み込んだ大きな黒い綿の花が 私を包んで冷たくする 昨日買ったクレヨン 飛行機雲 私の心を線引きしていく 曖昧で 散々で どこへ転がっても井戸の奥底 しゃがみ込んで泣いている 私を見つけ出して かくれんぼ 笑顔の裏に かくれんぼ 強がりの裏に かくれんぼ 分厚い壁の向こう ねえ 早く見つけて ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 大抵今まで書いてきた詩のことは覚え…

無題

誰も気づかなくていい 鈍い光が照らすその絵になんて 誰も知らなくていい その真っ白な絵の題名なんて 誰も答えなくていい そのなにもない絵に込められた意味なんて 誰も考えなくていい 全てを失ったその絵が描かれた理由なんて 誰も覚えてなくていい それがどんな絵だったかなんて さあもうライトを消してください 高校生の頃に書いたものが出てきたので掲載

君はかわいい

「幸福を他人に預けてはいけないよ。」 君に何度も言った。 君の大好きな人が君の幸福と一緒に死んだら、嗚咽しか残らないのを知ってるだろう? 君はその時、 誰かにとっての悪魔になるんだ。 君の笑顔はかわいい、大好きだよ。 だから自分を誇って。 悪魔になんてならないで。 君は君の幸せだけを願って、 明日を好きでいればいいよ。

眠れぬ夜を

君が今日死ぬかもしれない、 そんな不幸な考えが僕を生かしていた。 君は一度だって僕の幸せも不幸も願ったことはないだろうけど、 僕は君の幸せだけを願っているよ。 毎日美味しいご飯を食べて9時間眠る。 病気になんてならなくて、 僕ではない誰かの隣で笑う。 それだけのことを大切にしていて。 少しずつ傾くサジタリウスが君の心臓を射抜くその日まで僕は、 ありったけの珈琲を飲んで、 眠れない夜を繰り返してお…

平和な永遠の夜

世界中に溢れている敵意が 誰の元にも届かないで 太平洋の真ん中で 魚のエサにでもなっていればいいのに 誰もが笑っている世界で 深海魚だけが 暗闇の中で寂しさをつついている 光を知らないから ときどき頬をかすめるものに 愛しさや温もりを感じる そんな優しいいきもの 太陽が昇らなかったら 私たちも優しくなれるだろうか 冷たい鉄屑なんか捨てて 隣に座る誰かの手を そっと握れるのだろうか ~~~~~~~…