ブックカバーの詩
私は、私の大好きな言葉を紡ぐあの人の
本当の名前も性別も知らないのです。
ハンドバッグに入る小さな本に
無機質に印刷された文字だけが、
全てでした。
誰もが、どこか遠くにいる人の歌う歌を聴いて、
描いた絵を見て、
撮られた写真を信じて、
その人を知ったような気でいます。
私も。
夜ですね。
あの人はまた、素敵な言葉を
星と一緒に紡いでいるのでしょう。
私は平凡。
だからこんな夜にも、擦り切れた表紙を撫でては、
遠くのあの人の本を
何度も読み返すことしかできないのです。